禅〜凛と生きる〜|曹洞宗近畿管区教化センター

坐禅のすすめ

参禅体験レポート

歴史と文化の息づく「萩の寺」

仏日山吉祥林 東光院

大阪府豊中市
歴史と文化の息づく「萩の寺」「仏日山吉祥林 東光院」

先人達の文化が薫る萩と句碑

大阪のベッドタウン、豊中市の阪急電車曽根駅にほど近い閑静な住宅地に、今回坐禅会の行われる東光院はあります。

山門をくぐると、左側には重厚なお堂が建ち並び、反対側にはたくさんの萩の緑が生い茂る庭園が広がります。「萩の寺」の愛称で親しまれるだけあって、美しく手入れの行き届いたその姿に身も心も洗われる思いがします。かつて萩の可憐な花に豊臣秀吉の妻淀君も魅せられ、また正岡子規とその弟子、高浜虚子らも萩の句を寄せています。この他、数多くの俳人・文人・墨客が訪れたといわれ、境内には多くの歌碑が残されています。

萩露園
萩の植えられた庭園「萩露園」があり、秋になると三千株の色とりどりの見事な萩の花が咲きほこる。
正岡子規 句碑
正岡子規 句碑。硯石の形をして、子規の筆跡を正しく模刻したもの。

歴史の不思議に彩られるお寺

さきほどのお堂は「あごなし地蔵堂」といって、廃仏毀釈の嵐が吹き荒れた明治時代、隠岐島で信仰を集めていたお地蔵様を、当時の和尚様がこの寺へとお迎えになったそうです。

同じ頃、維新後の反徳川の風潮の中で、徳川家康をまつる川崎東照宮が廃社になりました。現在の大阪造幣局の隣地にあったと伝えられていたのですが、その後どうなったのか歴史の謎とされていました。しかし、昭和になってその一部の建物が、お地蔵様を護るお堂として、なんとこのお寺に移設されていたことがわかったのです。
遠く離れた場所で培われたふたつの信仰が、歴史の波に揺られながら、このお寺で一つに結びついたのです。

そのほかにも興味深いエピソードにあふれるものばかり。ここは歴史の不思議に彩られたお寺だということがわかります。

本堂
山門

苦難を越えて伝わる禅のおしえ

さて、今回参加する坐禅会は、住職の村山廣甫老師が始められてすでに30年以上の歴史があり、阪神・淡路大震災で本堂が全壊し、一時中断しましたが、現在では副住職の博雅さんがその指導を引き継いでおられます。

坐禅会は午後6時から始まります。まずは本堂の廊下に一列に正座し、鐘の音に合わせて深々と3回お拝をします。続いて経本を手に大きな声で般若心経をお唱えします。坐禅の前にお拝と読経で心と体をストレッチすることで、坐った時の安定感が随分違ってくるそうです。そして、鐘と太鼓の音に導かれて坐禅へと入っていきます。一日の終わり、夕暮れの静かな時間が流れ、ロウソクの明かりだけが揺れています。副住職は全体を細やかに見回り、慣れない初心者の方の姿勢を丁寧に直します。私の隣に坐られたのは作務衣を着たベテランの方で、微塵も崩れない姿勢に気が引き締まります。坐るのは自分ひとりですが、この静かな時間を共に過していると不思議な一体感が生まれました。坐禅が終わると、「ありがとうございました」の気持ちを込めて合掌します。

東光院の坐禅
東光院の坐禅
住職の村山廣甫老師と坐禅指導をする博雅師。住職は仏教者として、社会に向けた活動にも注力されている。
読経
東光院の坐禅
東光院の坐禅

ともに坐ることで元気になる

坐禅の後は勉強会へと続きます。参禅者のみなさんがてきぱきと動いて準備し、修行道場と同じようにお茶とお菓子が給仕されていきます。「すばらしい坐禅に参加させていただくのだから、こうして動くのは自然なことですね」というのは長年参加されている女性の言葉です。

お茶をいただきながら副住職による勉強会が始まります。

「仏教徒はあるがままのものをあるがままに見て、あるがままに受け入れる。お互いを大切にして、元気に、幸せにいきていくこと」とのお話しがありました。熟練者にも初心者にもわかりやすく、論理的な視点でお経に込められた思いを紐解いていきます。

参禅者に感想をお聞きすると、「坐禅の姿勢と同じで、自分の行いがまっすぐだと思っていても実はそうでないことに気づけました」「勉強会でお話しされることを自分で実践したいので、毎回坐禅会に来ています」との声が聞かれました。「自分だけの坐禅に固まらないことが大事。みんなと一緒に坐ることで、自分が思う以上に元気な自分に気づくことができるのです」と副住職はおっしゃいます。

勉強会
副住職の博雅師
副住職の博雅師。つねに真摯に取組む姿勢が参禅者の心をつかむ。

心と心を結ぶこよりの絆

最後に、ご住職から「こより十一面観音」についてお話をうかがいました。これは南北朝時代に悲運の生涯を閉じた後醍醐天皇を偲んで、朝廷の女性たちが写経した紙でこよりを作り、さらにそれを織って大きな衣として観音様に着せたものだそうです。現在の衣はそれを復元したもので、約1500人もの方が奉納された写経紙で織られていいます。

やはりこのお寺には、たくさんの信仰や思いが不思議なご縁によって集まってきているようです。そして同じように今日の坐禅会でも、あらたな心の結びつきが生まれています。

千数百年も前から現在に至るまで、多くの人々の思いや願いが引き寄せられ、こよりのように集まって、このお寺の魅力が生まれているように感じました。

こより十一面観世音菩薩立像
こより十一面観世音菩薩立像
寺院概略

山号を仏日山吉祥林(ぶつにちざんきっしょうりん)、寺号を東光院(とうこういん)と称す。天平7年(735)行基による開創。

もとは現在の大阪市北区中津にあって、通称「萩の寺」として親しまれ、「南の四天王寺、北の東光院」と並び称された1200年以上の歴史ある古刹である。

旧本堂は阪神・淡路大震災で全壊したが、復興をはたし現在の本堂となる。行基作の秘仏「薬師如来立像」や「釈迦如来(降魔座釈尊)坐像」(国重文・旧国宝)など、数多くの寺宝をもつ。

東光院
東光院
東光院
「東光院坐禅会」DATA
【開催日】
毎月 第3土曜日
【時間】
午後6時〜8時
【内容】
坐禅・勉強会
【会費】
志納
【TEL】
06-6852-3002
※日程変更等もありますので必ず事前にお問い合わせのうえ、ご参加ください。初めての方も丁寧に指導いたします。
参禅会スケジュール
18:00 坐禅1
18:25 経行(歩く坐禅)
18:35 坐禅2
19:00 片づけ
19:10 勉強会
20:00 散会
交通アクセス
住所 豊中市南桜塚1-12-7
交通 阪急宝塚線「曽根駅」より徒歩4分
※記事は取材時点での内容です。
Copyright©2002-2024 SOTO-KINKI. All Rights Reserved.