禅〜凛と生きる〜|曹洞宗近畿管区教化センター

坐禅のすすめ

参禅体験レポート

尼僧の細やかな心づかいにふれる

円通山 松山寺

兵庫県川辺郡猪名川町

心地よい静けさが溢れる

お寺の近くの畑から、うっすらと立ちのぼる朝霧。青空の下に満たされた澄んだ空気を胸いっぱい吸い込むと、それだけで「早起きしてよかった」という気持ちになります。

朝7時。

参禅者はおもむろに立ち上がると、回廊に一列に並びます。
「パンッ――  パンッ――  パンッ――」

東堂の平尾玄秀老師が力強く打ち鳴らす木版。その乾いた音が境内に響き渡ります。

薄暗い堂内に入ると、目に飛び込んでくる太く大きな柱。大自然が持つ迫力に満ちあふれ、まるで深山幽谷にいるかのよう。あとから「松」だと教えてもらいましたが、これほど大きな松の木には、そうはお目にかかれません。

全員が脚を組み姿勢を調え終わると、静けさがいっそう深くなります。「ごくり」と唾を飲み込むこともためらわれるような静寂です。耳に入るのは、一定のリズムで響く庭のシシオドシと鳥のさえずりのみ。

やわらかな朝の光に包まれて坐るうちに、心が研ぎ澄まされていきます。静かであることが、これほどまでに心地良いとは…。
なんとも豊かな時間です。

本堂の柱に使われる松
本堂の柱に使われる松。
巨木のもつ風格に圧倒される。
松山寺での坐禅風景
朝日に照らされながら本堂で静かに坐る参禅者。

じっくり坐ることの大切さ

坐禅の時間は1時間。経行(歩く坐禅)はなく、じっくりと坐り続けます。

「私たちは、吸う息と吐く息とをくり返しながら生きている。生かされている。ただひたすらに坐ることで、そのことを確かめていただきたい」という老師の言葉で坐禅は締めくくられました。

坐りきったという、爽やかな達成感とジンワリとくる足の痺れ。「修行が足らん!」と叱られそうですが、初心者の私は「自分をほめてやりたい」気分になってしまうのでした(ガッツポーズ!)。

「朝はつらいです。でも来ると、何か得ることがある」「忙しい日常では、こういう時間が大切だと思う」「せめて月に1度は静かな時間を持ちたい。お寺の静けさが好きです」と参加者の声です。「最初は脚を組むのが辛かった」という方も「今は集中でき、とても落ちつく」と、続けることの大切さを感じられているようです。

松山寺での坐禅風景

丁寧に旬をいただくことの幸せ

坐禅の後は、精進料理をいただきます。

「今日は松山寺の秋を味わってもらいましょう」と玄秀老師。湯気の立つお粥の中には、淡い黄緑色をした銀杏が浮かんでいます。「朝粥」とは聞いていましたが、ただのお粥ではないようです。「秋を味わう」というテーマのもと机の上に並ぶ数々の料理は、「坐禅会の食事」という範疇を超えています。

美味しそうな料理に目を奪われていると、盛り付けの籠の中に、なにやらキノコのようなものを発見!(もしやマツタケ?!)

はやる気持ちを抑えて『五観之偈』を唱えます。心を落ち着けて食事に向き合うこと。これこそが、食事の基本中の基本です。作法にのっとり、静かにいただきます。季節の旬がぎっしりと詰まった料理の数々。まずはお粥を口に運び入れると、やさしい温もりが口中にひろがります。銀杏の風味と塩加減がなんとも絶妙で、こんなにお粥が美味しいとは驚きました。

「ここの精進料理が一番」「薄味すぎず美味」「あたたかい味がする」と皆さんが口を揃えるのも納得です。

『五観之偈』を唱え、心を落ち着けて食事に向き合う。
まっすぐに食事に向かい合うことで、
食に対する新しい発見があるという。
日常とはちがう静かな食事が
もたらす安らぎのひと時。

お寺は人間づくりの場

もちろん調理はすべてお寺でされています。この日は住職の平尾玄峰老師が典座として、料理と給仕に専念されていましたが、数日前から玄秀老師と準備をするのだとか。昨今の食の乱れを憂い、手間を惜しまずに心を込めて作る。食材を活かす料理を心がけ「家庭でも思い出していただければうれしい」とおっしゃいます。

さてさて、いよいよ先ほどの籠の中身へ。まずは大きな栗をパクリ。そして例のキノコをゆっくりと口の中へ――シャキシャキのあの歯ざわり。「やっぱり松茸だ~」と感動…すると「エリンギを炭火で焼いてみました」と一言。「松茸は不作でね」とニコリと微笑む老師に「だまされた~」と言うわけにもいかず、ただその美味しさと工夫に感服するばかりでした。

「お寺は人間づくりの場」と考え、できることをコツコツと精一杯に積み重ねてきた松山寺。

玄秀老師は「計算をしない、計算をしたらお坊さんも商売人。いつでもいらっしゃい」と笑顔で話されます。打算なく続けられるからこそ、人々の心に届くものがあるのだと感じました。

静寂の時間と心づくしの食事。心と身体にしみわたる参禅会でした。

松山寺の精進料理
食材のこと、そして食べる人のことを想い、
丁寧に作られた精進料理。
「何でも手に入る時代だからこそ、
できるだけ旬を味わってもらいたい」
という願いが込められている。
寺院概略

宝永4年(1707)に雲山道白居士により開基された。もとは三田(兵庫県有馬郡三輪町)の地にあり、三田藩主九鬼家の家臣の菩提寺として護持されていたといわれるが、水害により甚大な被害をうけ、現在の地に移転した。もともとこの地には普門庵があったが昭和4年(1929)9月に松山寺と改称された。

本尊は十一面観世音菩薩。寺に古くから伝わる西国三十三所の札所本尊と同様の観音像33体も祀られている。

住職の平尾玄峰老師
住職の平尾玄峰老師。
当日は典座として食事の準備に専念する。
女性らしい心配りがうれしい。
東堂(前住職)の玄秀老師
住職を退かれた後も東堂(前住職)
として精力的に活動する玄秀老師。
参禅の指導にもあたる。
「松山寺坐禅会」DATA ※現在は休会
【開催日】
毎月第3日曜日
【時間】
午前7時~午前9時
【内容】
坐禅・精進料理
【会費】
無料
【TEL】
072-769-0030
※食事の用意などがありますので必ず事前にお問い合わせのうえご参加ください。
参禅会スケジュール ※現在は休会
7:00 坐禅
8:10 精進料理
8:40 法話・茶話会
9:00 散会
交通アクセス
住所 兵庫県川辺郡猪名川町島字西山6
交通 能勢電鉄日生中央駅バス停1番乗場から26分/530円
杉生線-41後川行・61柏原行 大島小学校前 下車すぐ
【車で】
阪神高速11号池田線木部第2出入口より R173から12篠山方面へ/23キロ/約40分
※記事は取材時点での内容です。
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