禅のお話
過去の法話
19円の寄付単
奈良県 瀧川寺 住職 大谷良心 老師
各お寺に、寄付名簿の単牌が掛かっているのを見かけられたことはありませんか。
岩本さんがご夫婦でお参りにみえられ、本堂でお茶を一服して歓談しながら「私のひいお婆さんはね」といつものように大正6年の本堂再建時の寄付単を指差して昔話を始められました。
ご主人を早くに亡くされ、苦労して子どもたちを育て、旧家を守ってこられたお婆さんでした。故に一家の代表として90年以上前の寄付名簿が木の単牌として残っています。
そして、昔の寄付名簿は名前も金額も備品名も丁寧に書かれています。
その時奥様が「なぜ19円なの?」と素朴な疑問を呈されました。
「中途半端やないの。20円とか切りの良い数字でいいじゃないの」
一瞬の沈黙と視線を受けて、私は道元様のお話をいたしました。
道元様示して曰く
「作す事の難きにはあらず。よくする事の難きなり」と。
することが難しいのではなくて、一生懸命にすることが難しいのです。
この19円が精一杯の金額なのです。ここには世間体も、まわりの人にあわせようとする考え方もありません。自分が今できる精一杯が、19円として寄付単牌となって残されているのです。
人間は都合の良いことは人に合わせ、都合の悪いことは我が道を行きたがります。昔の人の行いを偲ぶとともに、もう一度「行う事が難しいのでは無く、一生懸命することが大切なのです」
このお示しを毎日の自分に自覚させようではありませんか。
「19円の寄付単/大谷良心 老師」(音声:3分4秒)
2014/05/01