過去の法話

お父さんは偉い人

奈良県 平等寺 副住職 丸子孝仁 老師

毎月、お参りをさせて頂いている、あるお檀家さまのお話です。

お仏壇での読経が終わってから、お婆さんが、「私のお父さんは偉い人だった」と話し始めました。

「まだ妹が生まれて1ヶ月も経たない頃、家に帰るとお母さんが寝ていた。いつも朝早くに畑に行って日が暮れるころに帰ってくるのに、なぜかお母さんが寝ている。どうやら体調をくずしたようだ。家は峠の上にあり、風がいつも吹き荒れているような場所だった。村には車もないので、籠で担いで遠い病院まで運んでもらっていた。だから、滅多に病院にも行けなかった。

だんだん弱っていく母は乳が出なくなったので、昼は私達兄弟で、お寺の奥さんに母乳をもらいに行った。お父さんは畑仕事から帰ってから、夜に米をすり潰して煮たものを飲ませた。冷蔵庫もないので、米のお汁はすぐに腐った。小さな妹は夜中に何度も泣く。家には暖房もなかった。寒い日は泣く度に、綿の入ったちゃんちゃんこを着て、その中に妹を入れて、夜も寝ないで、自分の肌で温めた。そんなお父さんの姿をみて、私達は育った。だから今の私があるのも、お父さんのおかげ。お父さんは二番目に偉かった」

「それじゃあ、一番偉い人は誰だったんですか?」と私は聞きました。

「妹は2歳ではしかにかかって亡くなった。そのはしかで、お母さんも亡くなった。お母さんがいなくなって、寂しかった私達と遊んでくれたのが、お寺の和尚さんだった。お寺に行くといつも、満面の笑みで迎えてくれて、とてもやさしかった。だから一番偉いのはお寺の和尚さん、二番目に偉いのはお父さんだった。」

お婆さんは毎日、お父さんの姿を思い出しながら、お仏壇に手を合わせています。み仏とご先祖の思いやりの心は、長い命の連なりの中に生き続けていくのです。

2013/10/29