過去の法話

以心伝心

奈良県 宝泉寺住職 北野伸英 老師

テレビ番組で、ご夫婦に「お互いそれぞれに対する不満はありますか?」というアンケートがとられていました。

妻から夫への不満、第1位は「もっと言葉が欲しい」というものでした。何かを言う時は「あれ」「それ」といった一言。「ありがとう」や「ごめん」という言葉もなかなかありません。

夫の言い分としては「今さら言わなくてもわかるだろう」ということです。

皆さんにもお心当たりはありませんでしょうか?

「言わなくてもわかるだろう」。つまり「以心伝心」というものです。

この以心伝心、実はお釈迦様にまつわるお話が元になっています。

ある時お釈迦さまが多くのお弟子達の前で、蓮の花を取って差し出されます。誰もがその意味がわからずに黙っていたのですが、ただ一人その意味を理解したお弟子が微笑みをを返されたということです。

「拈華微笑」と呼ばれるこのお話。

お釈迦さまは心が伝わったその1人のお弟子に仏法の真理を授けられました。言葉が無くとも心が伝わり合うのが「以心伝心」。しかし、それとは逆にしっかりと言葉を伝えることの大切さを感じませんか?

お釈迦様のお弟子になるほどの多くの立派な和尚さま方の中で、たった一人しか「以心伝心」は成されなかったということなのですから。

心だけで通じ合うことは、お釈迦さまだからこそ無し得たのかもしれません。気持ちを伝えるために、私たちは言葉を惜しむことないよう、つとめようではありませんか。

「以心伝心/北野伸英 老師」(音声:2分37秒)
2012/12/17