禅のお話
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心のトゲを生きる力に変える
日本は春夏秋冬の四季がはっきりしていて、秋から冬に掛けて山野草の花もすっかり少なくなっていきます。
先日、ススキの間に可愛いピンク色の花が咲いていましたので、花をよく見ようと花の茎を持ったところ、茎に棘が生えていて、決して強い棘ではないのですが、私の指先に引っかき傷をつけてしまいました。「ママコイジメ」という名前の山野草でした。
名前が変わっているので、大切にしているのですが、山野草に興味がない人は、棘がある嫌な雑草として、この花を見ることもなく、無碍に刈り取ってしまうでしょう。
この花を人間に置き換えてみましょう。
自分にとって都合の良いことを言ってくれる人を「良い人」と捉えて、苦言を呈してくれる人を「苦手な人」と思っていませんか。
あるファーストフードのお店にアルバイトとして採用された高校生のお話をご紹介しましょう。
採用されて最初の出勤日に店長さんから「お店の床の掃除をしなさい」と言われました。
私は、「えっ、ちょっと待って!約束が違うやないか。私はお店の制服を着て、いらっしゃいませー。何にしましょうか、と言うのをやりたかったのに。何で掃除なん」と言い返しました。
店長さんは「つべこべ言わずに掃除をしない」と、怒鳴りつけました。
私は、「もう辞めたる」と思いながら、いやいや掃除をしていると、店長さんが「こっちへ来てみなさい」と言って私を店の外へ連れて行きました。
「何なんやなあ、掃除をしてるのに」と言いました。
すると店長さんは「お店の入り口から中を見てごらんなさい。中では分らんけど、外から見たら汚れているところが分るやろ。お客さんを迎える心構えは、綺麗に掃除することや。アルバイトはお金儲けと違う。人間を磨くところや」
そう言う店長さんが、父親のいない私には、お父さんみたいに思えてきました。厳しいけれど、温かい。言葉の隅々が温かい。
最近では困ったことを相談すると相談にものってもらえます。お母さんと違った考え方を聞くことも出来ます。これからもずーっとこの店長さんに付いて行こうと思います、と話してくれた高校生の笑顔には安堵感が満ちていました。
店長さんは、この高校生の心の棘を、生きる力に見事に変えたのですね。