禅のお話
過去の法話
親孝行をすすめたい
「偉い和尚さんがおいでになっているから挨拶していらっしゃい」と母が私にいいました。
少し緊張しましたが、いつものように客間に行き、襖を開けて両手をついて「いらっしゃいませ」と大きな声でいいました。
一番近くにおられた黒い衣をつけられた和尚さんが「おはよう」と笑顔で答えてくださいました。
がっしりとした体格の、厳しそうな方に見えました。
「ボンよ、こっちへ来い」と手招きされました。少し戸惑いながらも「はい」と返事をして、すぐ横に正座しました。大きな手で頭をなぜながら饅頭を二つ手の上にくださいました。
そして、
「はよおおきゅうなれよ、おおきゅうなってのぉ、親孝行せいよ」と言われたのです。
この和尚様が永平寺78世 宮崎禅師様なのです。
禅師さま48歳。私は小学1年生の6歳でした。なんと58年も前なのです。けれども、そのときの情景ははっきりと記憶しているのです。思い出の宝物です。
みなさんは「親孝行」を勧められたことがありますか。最近は聞きませんし、口にしない言葉の一つになってしまったようです。
言わなくなっただけなのでしょうか。それとも忘れられたのでしょうか。
私はもう一度復活させたいと願っています。子どもたちに「親孝行するんだよ」と話しかけるのです。そうすると、良い反応が返ってきます。
「親孝行」は、温もりのある言葉なのだと思います。
さて、私の寺の銘に「温故知新」をあげています。
古き良きものを温め、継承してゆく。その上に新しいものを求める。その姿勢を大切にしたいと願うからです。お茶や華道の世界。歌舞伎や能やすべての世界がそうであるように、寺にあっても例外ではありません。変化や進歩とともに生きているのです。 ですが、その中にあっても親孝行は継承していただきたいと思います。