過去の法話

心のよりどころ

兵庫県 琴松寺住職 平和宏昭 老師

「苦しいときの神頼み」ということわざがありますが、神棚も仏壇も祀らないご家庭が増えているようですね。

病気で苦しい、試験勉強で苦しい、頑張っているんだけれど、自分ではどうしようもない、こんな時に、神や仏を祈るのです。

来年度から、新しい千円札と五千円札が導入されますが、印刷される人物、ご存知ですか。野口英世と樋口一葉です。どちらも、貧しい生活から一生懸命勉強して名前を残した人です。
野口英世のお母さんは英世が赤ちゃんの時に不注意で片手をいろりで怪我をさせてしまいました。この時、お母さんは観音様に願をかけて、毎晩お百度参りをします。お蔭で英世は、手術が受けられ、手を治すことができました。やがて、世界の人々を救う大博士となられます。

英世の母は、文字が書けません。年老いてから読み書きを習い、英世に宛てた手紙残っています。
「はやくきてくだされ、一生のたのみでありまするに、西さ向いても東さ向いてもおがんでおりまする」
という手紙を英世に送ります。

英世は、字を知らない母が、精一杯の努力をして書いたであろう、ありがたい愛情が一字一字にじみ出ていることを感じ取ります。

毎日、西を向いて拝み、東を向いて手を合わせ拝んでいた母のこの祈りが神仏に通じたのでありましょう、英世は実家に帰り、お母さんを安心させています。

道元禅師は
「合掌とは無我の当相なり」
つまり
「合掌は我を忘れた姿である」
と教えておられます。

手を合わせ仏様に向かった時は、現世利益の祈りであっても、次第次第に内なる自分の心を見つめるようになります。

家族にも友人にも話せない、誰にも話したくないこともあります。こんな時、自分と向き合える場所がお仏壇です。

子どもが成長し、それぞれの家庭を持つようになれば、心のよりどころとして「曹洞宗三尊仏」をお祀りし、安らぎのある生活を願うものです。

2005/03/01