禅のお話
過去の法話
迎え火
お盆は、日本民族の大移動の時ですね。
お盆休みに故郷に帰るのは、家族や親戚の出会いもさることながら、ご先祖さまとの交流のための帰省でもあるのです。
長谷川町子さんがお書きになった『サザエさん』というホームマンガ、ご存知ですね。『意地悪ばあさん』というマンガも書かれていて、とてもおもしろく拝見しています。
意地悪ばあさんはご主人を亡くされていますが、お盆になってもご主人はこの世に帰らず、閻魔大王と将棋をさしているのです。
閻魔さまが、「どうしてお前は、ばあさんの待っているところに帰らんのか。」と聞きますと、
ご主人は、「憎まれて、憎まれて、死んだのだから帰れません。」と言うのです。
「生きている時、ろくに働きもせず、浮気をし、酒ばかりくらって、女房を泣かせて死んだのです。」と閻魔大王に答えているマンガです。
こういう人達は、一年のうちたった一度だけ訪れるお盆であっても、我が家に帰れないのでしょうか。
西条八十さんは、
盆はな 盆はうれしや 別れた人も
晴れて此の世に 会いにくる
という詩を書いておられますが、ご先祖さまは、姿かたちこそ見えないけれども、我が家に帰ってきてくださいます。
では、ご先祖さまは、どこにいらっしゃるのでしょう。
あなたの姓(名字)の中にいらっしゃるのです。あなたの名前はあなた一人の名前ですが、名字はお爺さんもお婆さんも同じです。夫婦も同じ。兄弟も同じ。このように、ご先祖さまの名字は、親から子へ、子から孫へと続いていくのです。ですから、遠いご先祖様は、○○家先祖代々とご回向申し上げるのです。
私がこの世に生まれるためには、2人の親がいります。私の両親には4人の親がいます。父親側2人、母親側2人、合わせて4人です。このようにして5代逆上りますと、32人の親がいることになります。10代まで逆上りますと、1024人になります。このうちの親が一人でも欠けていたならば、この私は生まれてこなかったのです。
お盆は、ご先祖さまをお迎えする仏教徒としての最大の行事です。
ご先祖さまは子供たちの元気な姿を見て、孫の様子を見て喜んでおられます。わが家が、栄えていくことを見守ってくださっているのです。
あかあかと灯される迎え火に、心が休まる想いがいたします。