過去の法話

四つの恩

兵庫県 琴松寺住職 平和宏昭 老師

最近、「恩」という言葉を使うと嫌う人が多くなりました。 一種の押し付けがましさを感じるのでしょうか。
「恩にきせる」「恩きせがましい」「恩知らず」「恩返し」そして「恩を仇で返す」などと日常使っている言葉ですが、「恩」というとうっとうしく感じるんでしょうね。

恩とは、「原因の心」と書きますが、「今の自分はこれでよいのか」「自分を育ててくれたのは何か」に思いをめぐらせなさいということです。
お釈迦さまは、「すべての人間が受ける四つの恩がある」と説いておられます。

第一は、父母の恩。
人間としてこの世に産んでくださった父母に対して、ここまで育ててもらったことへの感謝の心です。

第二は、国の恩。
これは社会の秩序に守られている恩です。例えば、車は左、人は右、このようにルールが守られているからこそ、安心して生活が出来るのです。

第三は、師の恩。
来年のNHK大河ドラマ「宮本武蔵」の原作者である吉川英治は、「我れ以外、みな わが師なり」と語っていますが、親から習ったこと、学校の先生に教えてもらったことなど、自分以外はすべて学び教わる先生なのです。

第四は、衆生の恩。
衆生とは、「生存している生命あるものすべて」という意味ですが、精神的にも経済的にも、沢山の人々や物に支えられ、お世話になって生きている、この恩義を忘れてはなりません。

環境汚染や自然破壊が問題になってきていますが、人間が大自然を変化させているのではないでしょうか。

感情に任せ、好き勝手にしていると、恩を忘れます。
恩を忘れると、人間堕落します。
心が堕落すると、言葉も堕落してしまいます。
言葉が堕落してしまうと、行為も堕落します。

「恩」という文字は、古代の日本人は、〈恵み〉と読んでいました。『日本書紀』のなかでは、はっきりと「恩」のことを〈恵み〉と読んで大切にしていました。
父母の恩、国の恩、師の恩、衆生の恩、この四つの恩に感謝して生きいきたいものです。

2003/07/08