禅〜凛と生きる〜|曹洞宗近畿管区教化センター

禅のお話

今月の法話

仏性

奈良県 宝泉寺住職 北野哲由 老師

縁があって北海道・網走のお寺へ行きました。2・3日お世話になっている間に、お檀家さんのお一人よりそのお家の子供さんが五歳の時、熊に噛まれて亡くなったというお話を伺いました。ある日町の近くで熊を捕まえたのですが、まだ可愛い赤ちゃんだったため檻を作って養うことになったのです。熊の赤ちゃんはとても人によく懐いて元気で成長したそうです。

子供たちの間ではすぐに人気者になり、学校の行き帰りには「熊のクーちゃん」と呼びながら残しておいた給食のパンを食べさせていたそうです。ところがそんなある日、当時幼稚園に通っていた子供さんがお兄ちゃん達の真似をして鉄格子の間からお菓子を差し出しました。すると突然熊がその子の手を握り強く引っ張ったのです。「クーちゃん痛いよう、痛いようクーちゃん」と泣き叫ぶ子供の声に近所の人たちが駆け寄りなんとか助けようとしたのですが、ますます強く引っ張る熊のために、とうとうその子の手は抜けてしまい、そして出欠多量でその子は亡くなってしまいました。

私はあまりにも痛ましい話の結末に暗然となってしまい、その子のお母さんにお慰めのことばもしらず、只々一緒にお地蔵さんに手を合わすのみでした。

よく「飼い犬に手を噛まれる」といいますが、どんなに親しんでも熊はやはり猛獣です。幼い間は、可愛いクーちゃんであったかもしれません。しかし3歳にも成長すれば己に凶暴な本性が出るのでしょう。突然、目を覚ました本性が恐ろしい力で惨事を引き起こしてしまったというお話です。

2005/02/02
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