禅のお話
今月の法話
アイサツ
おはようございます。
ふつうの挨拶ですが、夕方から仕事を始めるような、例えばテレビ局の番組の関係者が夕方に初めてお互い顔を合わすと、「おはようございます」なのだそうです。
「なんか変だな この使い方」と、どこか可笑しさが残ります。
日本語学者の金田一春彦先生によりますと、「『おはようございます』は単に朝が早いねと云うだけでなく、『朝早くから起きて仕事に精が出ますね』という言葉が省略されている」と仰っています。
挨拶には相手をねぎらう気持ちも込められているのですね。
「自分より早くからいらっしゃって、頑張って仕事をしておられるね」という意味だとしますと、夕方「おはようございます」と云って、関係者がその日初めて顔を合わすのも肯けます。「おはようございます」のあとに何か言葉を足して互いの距離を縮めて親しくなれるきっかけのことばが挨拶なのです。
「あいさつ」を漢字で書きますと二文字になります。
あいさつの「あい」の字は、手偏を書いてその右にカタカナの「ム」、その下に弓矢の「矢」を書きますと「挨」の字が出来ます。
あいさつの「さつ」の字は、手偏を書いて、その右に平仮名の「く」の字を横に小さく三つ並べて書き、その下に「夕方」の「夕」の字を書くと「拶」の字が出来ます。
「挨」は〈おす〉という意味があり、「拶」は〈せまる〉という意味があります。禅宗では一挨一拶といいまして、禅の指導者が弟子の心境の深まりを読みとったり、禅の修行者同士が互いの力量を試しあう時のことばであります。つまり「挨拶」本来の意味は、心で心を読みとる事といえます。
普段のあいさつを、禅の問答のように丁々発止とやり合うことはまずないと思いますが、「おお」とか「やあ、どうも…」とそっけなく済ませたりせず、時には短くても相手を思いやるような言葉を続けると随分変わってくるものだと思います。
挨拶は互いの心と心の交流です。挨拶を、相手との距離を縮めて仲良くなれるきっかけと思えば、心の交流を果たすことができます。
「『おはようございます』の一言もなく、スーッといつの間にか現れて、席にいる社員にびっくりした」と、云う人がありました。そんな寂しい職場や社会にしない為にも身近な挨拶を通じて、心の交流を深めていきたいものです。