禅のお話
今月の法話
成道の釈迦
「お釈迦さまはどんなお姿だったのだろうか。会えるものなら会ってみたい」と願っていた私は、28歳の時、恩師からお釈迦さまの似顔絵を頂いたのです。
それは、大英博物館に秘蔵されている生前中に写生されたお顔の絵の複写でした。
お釈迦さまがお悟りをひらかれ、その6年後はじめて、お生まれになった釈迦国を訪ねられたとき、父である王が、画家に命じて写生させたという絵です。そのお顔は、まことに聖者そのものでした。
その絵を頂いたとき、私の寺では、坐禅堂の建設の最中でした。ぜひ坐禅堂にお祀りしたいと、近くの著名な絵の先生に、その絵を元にお釈迦さまが成道された時の絵を描いて頂くことを考えました。
しかし、さまざまな理由でその先生にお願いすることができなくなり、一念発起し私は画材道具一式と百号キャンパスを買い求め、生まれて初めて油絵に挑戦することになったのです。
お釈迦さまをお慕いしながらの50日。何とか畳1枚半の絵が完成し、私はその絵を「成道の釈迦」と名付けました。
その後こんな二つの体験をしました。
今はなき、仏教学者の最高峰といわれた中村元先生にお会いしたときに、お釈迦さまはどんな人であったかとたずねると「顔色の清らかな身のうるわしい方であった、と古い文献にあります。」と即座にお答えになりました。
また、宮沢賢治の生家を訪ねたとき、私が手本とした大英博物館の絵を賢治が大事にしていたことを知り、この二つのことに、「成道の釈迦」を描き上げた私にはなんとも嬉しく感じました。
日曜の朝に坐禅会を始めて満30年になります。遥かなる2500年前のお釈迦さまを描かせて頂いた「成道の釈迦」。太陽の輝きを背に手と足を組み、すべてを見守ってくださるお釈迦さまが坐禅会の私たちを導いてくださっていると感じます。
命の深さを学び、限りなく尊い自己を発見する。このひたすらに尊い坐禅を、お釈迦さまの成道に想いをよせ、一日一日につとめましょう。