参禅体験レポート

地福寺(じふくじ)・滋賀県東近江市

まあるい石仏に迎えられ

八日市インターを下車し、約20分。「目的地周辺です」とカーナビがお寺に近づいたことを知らせてくれます。寝ぼけた頭もようやくスッキリし、真っ暗だった空も、ぼんやりと白んできました。

朝のやわらかい光の中、竹林につつまれた山の斜面には、たくさんのお地蔵さまがお祀りしてあります。風雨によって丸みをおび、お顔の表情はわかりませんが、石からにじみ出る雰囲気は、それぞれに温もりいっぱいです。私たちと同じように、背丈も体型もいろいろ。個性豊かなお地蔵さまのお出迎えに、到着早々に心が和みます。

杉の木地蔵
自然ととけあうお地蔵さまの姿は素朴で、なんともかわいらしい。真新しい前かけの赤色が鮮やかだ。地域の人々にとっても大切なお地蔵さまである。

おだやかな空間にマイナスイオン!?

「いつものように朝のお勤めからはじめましょう」という住職の安田賢悟老師の声とともに、本日の参禅会がスタートします。丁寧に線香をお供えし、読経がはじまりました。小気味よいテンポで木魚のリズムが堂内に響きます。

読経に引き続き坐禅です。本堂の正面から入堂して坐蒲のある所へ移動します。本堂には大きな窓があり、ロールスクリーン越しにも木々の鮮やかな緑が目に入ります。「うわーきれいっ。同じ坐禅をするなら、あっちがいいな〜」曹洞宗の坐禅は壁に向かう「面壁(めんぺき)」が基本。目は、仏像と同じような半眼状態ですから、決して風景を観賞するわけではないのですが、「窓越しでも自然のイオンを浴びたい〜」なんて邪道な考えが頭に浮かんでくるのでした。(ゴメンナサイ)

もう一方の壁には、金色に輝くお地蔵さまの大きな絵がかけられています。その柔和なお顔は美男子そのもの。神秘的なエナジーを感じます。

読経
地福寺の坐禅
地福寺の坐禅
地福寺の坐禅
坐禅堂(本堂)から見える紅葉の木。四季折々の表情を見せ、人々の心をなごませてくれる。

静けさと自然につつまれて

坐禅は約30分。いつもとは明らかに違う深い呼吸によって、爽やかな空気が身体の隅々までいきわたり、ゆっくりと心が静まってきます。時おり耳に入る鳥のさえずりや葉擦れの音。薄暗い本堂を吹き抜ける朝の風を感じ、大自然につつまれているような心地よい時間です。放禅鐘(ほうぜんしょう)の音で合掌低頭(がっしょうていず)し、坐をときました。心も身体もすがすがしい〜。

坐禅の後は、安田老師の法話です。みなさん真っすぐに向き合って、お話に聞き入ります。まるでお地蔵さまの声を聞くかのように、その言葉を自らの心でかみしめているようです。

法話
住職の安田賢悟老師。かつては「私1人の坐禅会であった」と話す。それでも継続しつづけることで少しずつ定着してきたという。今ではネットで調べて、遠くから足を運ぶ人も多い。

素朴な味に真っすぐに向き合う

お話につづいて、朝粥をいただきます。あつあつのお粥を器にそそぎ、静かに朝食タイムです。修行道場では毎朝の食事は「お粥」と「ゴマ塩」と決まっていますが、現代人にはお粥=病人食という思い込みがあるかもしれません。しかし、坐禅で心身を調えた後に、お寺のゆったりとした空間の中でいただくお粥は、なんともいえないおいしさ!グルメ大国の日本において「この味はノーマークだった」と、まさに目からウロコの感動的な味です。

おしゃべりすることなく静かに食事に向き合うことで、五感のすべてが「味わい」をキャッチするのかもしれません。手間をおしまず丁寧につくられたその心のぬくもりまでもが、料理とともに伝わってきます。

「すこしゴマがこげちゃったんです」とほほ笑む慎ましやかな奥様。ほんとうに美味しゅうございました─。

朝粥
朝粥
食事やお茶の準備は奥様の担当。随所におもてなしの心が感じられる。

坐禅とお寺がもたらすやすらぎ

「毎日ザワザワした生活なので、この時間が大切」と、川島俊雄さん。「こんな贅沢な時間とご縁をいただけてうれしい」とほほ笑み顔です。

岡部さんは、はじめは「自らを極めるために坐る」と考えていたのだとか。しかし、いざ坐ってみるといろんなことが頭に浮かび、「坐ることの難しさと、常に考え事ばかりしている自分に気がつけた」といいます。

竹田佳正さんは「坐禅会をとおして、四季の移ろいを感じる。仕事ばかりではシンドイが、坐ることでリフレッシュになる」と、静かに坐ることで新鮮な気持ちが生まれるそうです。

地蔵菩薩顕現
「地蔵菩薩顕現」洋画家の鈴木ゆきお氏によって描かれたもの。私たちと同じところにいてくださるお地蔵さまの姿と力を表現している。

「最初はなかなか集中できなくて」と話す岡野久美子さんは、安田老師に「時には鳥の声も耳に入るでしょう。それでいいんですよ」と言われて肩の力が抜けたといいます。「今は、坐っている時間がとても心地よい」とのこと。

「厳しすぎず、ほどよい緊張感が大切。気軽に来てもらえるお寺でないと」と話す安田老師。

無住だった地福寺に来て30年。地道にまじめに続けられてきた、その言葉の重みを感じます。

坐禅の後も、お地蔵さまに見守られながら、時の過ぎるのを忘れてリラックス。つい、ゆっくりとくつろいでしまう、心がホッとやすらぐ坐禅会でした。

寺院概略

ご本尊は、慈覚大師(じかくだいし)が人々を救うことを願ってつくられた地蔵菩薩(木像)である。『三国伝記』によると、この地蔵菩薩は洛陽白川で広く信仰を集めていたが、応仁の乱の戦火を避けて近江の地に移されたとされる。

戦国時代、天正の乱により諸堂がことごとく焼失するも、ご本尊は火難を逃れた。

万治3年(1660)に曹洞宗の僧・義亭和尚がその再興を決意し、開山恵丹和尚と2代目瑞光和尚ら数十年にわたる托鉢によって再建された。

地福寺

「地福寺坐禅会」DATA

日時
毎月 第2日曜日
時間
午前7時〜8時30分
内容
坐禅・法話・お茶(朝粥)
会費
無料
TEL
0748-42-3160

参禅会スケジュール

7:00
朝のおつとめ(般若心経)
7:05
坐禅(約30分間)
7:40
法話
7:50
朝粥もしくは、お茶
8:30
散会

その他

  • 【写経会】毎月 第1日曜日 午後1時半〜
  • 【お茶とお菓子と写経の会(女性限定)毎月 第2木曜日 午後1時半〜
※事前にご確認のうえご参加ください。
地福寺

地福寺(じふくじ)

住所
滋賀県東近江市佐野町894
交通
JR「能登川駅」から徒歩15分(約1km)
地福寺への地図
※記事は取材時点での内容です。